シンガポールのアートサイエンスミュージアムの夜間ライトアップシンガポールのアートサイエンスミュージアムの夜間ライトアップ

ミニマリズム以後

ミニマリズム以後

20世紀のアートのターニングポイントとなったミニマリズムの作品が、3階ギャラリーでご覧いただけます。こうした作品は、演劇、パフォーマンス、音楽、建築、デザインなど幅広い芸術や創作活動に非常に大きな影響を与えました。ビジュアルアートの世界におけるその遺産は、変わり続けています。今日活動しているアーティストの多くは、作品のスタート地点としてミニマリズムを審美的または概念的に取り込んでいます。そのため、ポストミニマリズムとして言及されることも少なくありません。

ミニマリズム最盛期の多くの芸術作品のように、ここで見られる作品も日常にある物質や工業用の素材を元に作成されています。彼らは、シンプルで幾何学的な形状、オブジェクトやアクションの反復、そして空間を深く認識するものを使うなど、本来のミニマリズムのスタイルを定義した基準の多くを採用しています。

出展アーティスト: ジェラルド・バーン、タワチャイ・プントゥサワディ、モーガン・ウォン
注目の作品
Time Needle Series(No. 1–25)、モーガン・ウォン(2016年から現在)
MILL6 Foundation所蔵、香港

Time Needle Series(No. 1–25)、モーガン・ウォン(2016年から現在)

金属粉とガラス
25パーツ、各11 x 0.5 cm (直径)

展示中のモーガン・ウォンによる3つの作品は、「磨杵作針(太い鉄棒を磨き続けて細い針にする)」という中国の諺が基になっています。努力と意志の強さをもってすればどんなことも可能であるという教訓を伝えています。鉄の棒に何度も繰り返しやすりをかける行為は、現在に至るまでウォンが熱心に続けているパフォーマンスです。2013年、彼は中国の諺に描かれている行為に基づいてパフォーマンスを開始しました。最初は中国で、その後ロンドンに移り、針ができあがるまで鉄の棒にやすりをかけるという困難ながら無益に思われる作業を毎日続けています。

幾何学的に繰り返される単純作業は、ミニマリズムの美学において最もよく見られる特質の1つです。展示中の写真やビデオには、単調で先の見えない行為とウォンの作品に対する強い信念が記録されています。鉄から出たやすり粉は保存され、ギャラリー中央に配置されインスタレーションを形成している、複数の同じ形をした白い台座上にある針状のガラス小瓶に収められます。

その他の展示作品:
- Where is the Sage (2011年)
- Filing Down a Steel Bar until a Needle is Made (2013年から現在)

A Thing Is a Hole in a Thing It Is Not、ジェラルド・バーン(2010年)
リスモア・キャッスル・アーツ、C.ウォーターフォード、アイルランド共和国、シカゴ大学ルネッサンス学会、2010グラスゴー国際ビジュアルアート・フェスティバルの共委託。ファン・アッベミュージアム、アイントホーフェン・カーテシー・オブ・アーティスト、リッスン・ギャラリーとのコラボレーション

A Thing Is a Hole in a Thing It Is Not、ジェラルド・バーン(2010年)

ビデオ、高画質、5チャンネル、16:9フォーマット(各々)、カラーおよびサウンド(モノ)、時間は変動、2~30分(ループ)
寸法は変則的

ジェラルド・バーンはアイルランド出身のコンテンポラリーアーティストで、フィルムやインスタレーションを活動の場としています。このマルチスクリーン ビデオインスタレーションでは、ミニマリズムの歴史を探索します。5本のフィルムは、ミニマリストの芸術作品がミュージアムに設置されているシーンを映し出し、再現されたミニマルアートの歴史とコンテンポラリーアートシーンの間を行き来します。

フィルムの中には、ミニマリズムの巨匠フランク・ステラ、ドナルド・ジャッド、ダン・フレイビンの3人が1964年にラジオ上で行った会話をスクリーン上で再現しているものもあります。また別のフィルムでは、アーティストのトニー・スミスが1950年代に未完成のハイウェイをドライブする様子を描写しています。彼の経験を元にしたストーリーはミニマリズムにとって影響力の大きなテキストになりました。その他のスクリーンでは、ステラの「タキシード・ジャンクション」(1960年)やロバート・モリスの「コラム」(1961年)など「ミニマリスト最盛期」の主要な作品を上映します。この作品のタイトルは、カール・アンドレが示した「作品と作品の間にある空間は、作品そのものと同様に重要である」というミニマリズムのアイデアを示した言葉からの引用ですが、ミニマリズムのルーツをより深く示したものと言えるでしょう。

ギャラリー内に、ほぼミニマリズムのオブジェクトとして設置されたバーンの5つのスクリーンは、伝統的なミニマリズムに思いをはせると同時に、厳格なミニマリズムへの鋭い批評もしくはパロディとしての物語を伝える機能も果たしています。

Haumea、タワチャイ・プントゥサワディ(2016年)
アーティスト提供

Haumea、タワチャイ・プントゥサワディ(2016年)

アルミニウムプレート、リベット、210 x 120 x 218 cm

タワチャイ・プントゥサワディは、タイのコンテンポラリーアーティストであり、視覚的リアリティーを歪め捻りを加えた記念碑的彫刻を創り出します。

この作品は、伝統的なミニマリズムアートと科学的知識の両方を利用しています。作品名は、海王星よりさらに遠い位置で太陽の周りを回る準惑星ハウメアにちなんで名付けられています。ハウメアはその急速な回転と独特の細長い形状で、天文学者を魅了しています。あまりにも回転が速いためハウメアの形は時間の経過とともに歪んできており、今ではプントゥサワディの彫刻のもつ印象的な楕円形の輪郭と同じように見えます。

プントゥサワディは、多くのミニマリズムのアーティストと同様、空間認識を高め、芸術作品を取り囲む空間や芸術作品間の空間の大きさを重視しています。彼は、複雑な数学を使用して形状を生成し、その後組み立てる際にはデジタル技術を用いず日常的な素材を使用します。シンプルな素材を使用した反復模様や、幾何学的なフォルムは明らかにミニマリスティックな性質を持っています。彼の作品の予想を超える形態は、1960年代にミニマリズムのアーティストに大きな影響を与えた別次元の存在や仏教の概念をもほのめかしています。