展示
『Radical Curiosity:
In the Orbit of Buckminster Fuller』展
「私のアイディアは、緊急事態というプロセスを経て生まれてきている。切実に必要とされているアイディアであれば、受け入れられるのだ」バックミンスター・フラー(1885〜1983)
『Radical Curiosity: In the Orbit of Buckminster Fuller』は、研究者であり、発明家であり、思想家でもあり、ひとつの肩書きの中には収まりきれない、バックミンスター・フラーの世界を辿るエキシビジョンです。芸術、建築、デザイン、工学、形而上学、数学、教育など、幅広い分野で活躍してきた彼の業績を紹介いたします。
フラーは時代に先駆け、デザインと科学を融合させる手法を考案していました。その根底にあったのは、世界を変えなければならないという使命感です。私たちが暮らすこの地球を、皆で協力して地球の能力を損なわせず、100%の人類のために、100%機能させられるようにしなければならない、という思想があったのです。
フラーと、20世紀を代表するクリエイター、思想家、建築家、芸術家らとのコラボレーションは、今にいたるまで、様々な分野のイノベーションを触発し続けています。当時、人類が直面した世界的危機の多くを予見し、いわゆる「宇宙船地球号」の「乗員の世話人」として私たちを導くべく、たゆまぬ努力を続けてきたフラーの思想に触れられる展示を、ぜひ会場でご覧ください。
アートサイエンス・ミュージアム、マドリードのテレフォニカ財団、そしてゲストキュレーターのローザ・ペラ、ホセ・ルイス・デ・ビセンテによる共同企画展です。
入場時間
(最終入館時間:午後6時)
チケット料金
展示概要
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デザイン革命
バックミンスター・フラーは自身を「包括的・先見的デザインサイエンティスト」と定義していました。つまり、宇宙に関する包括的な知識に基づいた解決策を予見することができる科学的デザイナーで、デザインサイエンティストであるというわけです。彼は「デザイン革命」を通じて世界を変えようとしており、それが成功すれば、地球とその機能に対する私たちの理解は、根本的かつ全体的に変化するはずでした。そのため、自らの使命を 「生態系へのダメージや人々への不利益を生じさせることなく、自発的な協力を通じて、最短時間で世界を人類の100%のために機能させること」だと定めていたのです。
フラーの初期のプロジェクトは、人間が何かに覆われたままある地点から別の地点に移動する方法を、根本から考え直すことに焦点を当てたものでした。そうして生まれたのが、未来の社会にとって理想的な住宅や自動車として考案された「ダイマクション・ハウス」や「ダイマクション・カー」だったのです。ダイナミック・マキシマム・テンションの3語を混成した「ダイマクション」というブランド名には、フラーの思想や行動がよく表れています。実験的精神を持ち続けたフラーは、知識と教育、物理学と形而上学、資源管理と情報といった分野の、革新的な戦略・アイディア・メソッドを取り入れ、仕事の幅を広げていきました。
そのアイディアやデザインは、現代に至るまで、芸術・建築・デザインといった分野の研究者たちに、自然の英知を認識し、それを今の生活に取り入れる方法を模索する際の原点として参照され続けてきています。新しいアプローチで言えば、自然のプロセスを観察し、それをデザインに活かすバイオミメティックデザインなどがその代表と言えるでしょう。
展示作品
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バックミンスター・フラー「Dymaxion Car, Fly’s Eye Dome」フラー85歳の誕生日に米国コロラド州アスペンで撮影, 1980. Courtesy of Roger White Stoller.
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「Dymaxion」ドローイング Courtesy of The Estate of R. Buckminster Fuller.
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ジオデシック
1950年初頭、フラーがそれまで探求してきた様々なテーマがひとつに収斂し、彼の最も成功したプロジェクトとして実を結びます。それがアメリカの人々の想像力を刺激し、未来を象徴する不朽のシンボルとなった、ジオデシック・ドームでした。
このジオデシック・ドームは、フラーが幾何学を執拗に研究して生み出したものです。球面上にある2地点を最短距離で結ぶ曲線をジオデシック・ライン(測地線)と言います。フラーはこの効率的な原理を利用すれば、理論的には安定性の高い構造を設計できるはずだと考えました。そして事実、ジオデシック・ラインを使って設計されたドームの強度は、そのドームを構成する個別の要素の強度よりも大きくなります。またジオデシック構造は、非常に大きな領域を最小限の材料で作ることができ、基礎がなくても自立できるのも特徴です。ジオデシックは、最小限のエネルギーや素材で最大限の機能は得られる、というフラーの思想の集大成と言えるでしょう。この構造の発明からフラーの死までの35年間に世界各地で建設されたジオデシック・ドームの数は10万〜20万にものぼります。
「Build-it-like Bucky Playground!(フラーみたいに作ってみよう! プレイグランド」には、色々と試して遊べる3つのエリアをご用意しました。
「Dome(ドーム)」
用意されている様々な素材を使って、自分だけのドームやテンセグリティ構造を作ってみましょう。「Toys on Shelves(棚の上のおもちゃたち)」
フラーの発明や構想から着想を得たおもちゃやパズルを実際に触って遊んでみましょう。Building Activity(作ってみよう、アクティビティ)
クレートボックスに入れて置いてあるカラフルなスティックやさまざまな形の素材を使って、みんなで遊んで楽しめる構造を作ってみましょう。フラーの素晴らしいアイディアやクリエーションから学び、刺激を受けられるアクティビティです。
保護者の方はお子様から目を離さず、お子様が1人で行動しないようご注意ください。*
展示作品
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「Build-it-like-Bucky Playground!」のレンダリング画像、アートサイエンス・ミュージアム
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バックミンスター・フラー「Montreal Expo 67 dome」の写真。Courtesy of The Estate of R. Buckminster Fuller.
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テンセグリティ
フラーが最も大切にしていた概念は「シナジー」、すなわち、自身が抱いていた宇宙に関するビジョンを、サステナビリティを実現するアイデアに結び付けることでした。
シナジーとはシステム全体の動作であり、そのシステムを構成する個別のパーツの動作からはシナジーを予測することはできません。フラーにとって、シナジーとはビジョンであり、方法論でもありました。
「宇宙こそ、まさにシナジー中のシナジーです。システム全体の既知の動作と、その全体を構成するパーツのいくつかに見られる既知の動作から、他のパーツやその動作特性を発見できるのは、シナジーの帰結です。何が起こっているのか本当に理解するためには、パーツから始めるのをやめて、全体を見てから細かい部分に移っていくやり方で取り組む必要があります。[中略]何かひとつの動作があれば、程度の違いはあれど、それは必ず他のすべてのものに影響を及ぼします。もちろんあらゆる生命が、そういった存在です」 (バックミンスター・フラーの言葉)
このアイディアを実際に機能する形で視覚化するため、フラーは幾何学を応用して、彼のもうひとつの重要コンセプトである「テンセグリティ」を生み出しました。これもテンションとインテグリティを組み合わせた造語です。テンセグリティでは、剛性要素が、連続的な張力と不連続な圧縮力のみで空間に吊り下げられています。フラーがこの概念を使って設計したビルディングエレメントが「オクテット・トラス」や「テンセグリティ・マスト」といった、4次元、つまり時間と空間を具現化したシナジーシステムです。
展示作品
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バックミンスター・フラー「Geodesic Tensegrity Sphere, 30 Strut」 Edition 6 of 10, 1980. Courtesy of Carl Solway Gallery, Cincinnati.
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シェルター
バックミンスター・フラーは、そのキャリア初期から、住宅を再発明すれば社会をすぐに変えられると確信していました。20世紀初頭には、工業化によって日常生活のあらゆる側面が変わってきていましたが、それでも住宅の形や機能、そしてその中での私たちの暮らし方は、基本的には変わっていなかったのです。
フラーは、未来の住宅はエネルギーを自給自足するようになると考えていました。新しい自動化技術で、エネルギーの供給ネットワークや家庭内の雑用から、住む人を解放できるはずだ、というわけです。
フラーの発明の中でも特にラディカルなこの概念の根底には、住宅は移動できなくてはならない、という彼の信念がありました。状況の変化に応じて、住む場所もできるだけ早く変えられるようにすべきだ、というのです。住宅とそれが建っている土地との間にある、他に選択の余地がない関係を無くしてしまえば、土地の所有権は「海の所有権はボートにある、という考え方と同じくらい無意味なもの」になるでしょう。
フラーが住宅の再発明に関するアイディアの数々を世に出してから100年、世界の大都市はどこも住宅難の危機に悩まされています。「シェルターテクノロジー」を見直し、住宅を誰もが手頃な価格で手に入れられる、サステナブルなものにするというのは、現代に生きる私たちが直面している非常に大きな課題のひとつなのです。
展示作品
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バックミンスター・フラー、貞尾昭二「Dome over Manhattan」写真, 1960. Courtesy of The Estate of R. Buckminster Fuller.
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情報
フラーは、この世界にある問題の原因の多くは、社会における活動のパターンを検出できないことにあると考えていました。そこで、世界の資源が分配されているかをきちんと理解すれば、誰にとっても合理的な解決策をもっと簡単に見極められるのではないか、と提案したのです。
世界はデザインとサイエンスを双対させることで機能するのではないかと探究を続けるなかで、フラーは1930年代に、コンピューターがもたらす新しい可能性に目をつけ、分析可能な大規模データベースを作成して大量の情報を処理すれば、より優れた決定を下すのに役立つのではないかと考えていました。世界の複雑さを表現するには、新しいビジュアルコードを生み出す必要があると気がついていたのです。北と南、東と西という、よく間違えてしまう概念を当たり前のものとせずに地球を表す、新しい地図作成方法もそのひとつでした。
ビッグデータと情報の視覚化、そしてゲームのメカニズムを使って複雑な問題を解決するゲーミフィケーションのロジックから生まれてきた現代の論説を、フラーはこうしたテクノロジーが実現される何十年も前から予見していたのです。
展示作品
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バックミンスター・フラー「How to assemble the globe」 ライフ誌 1943年3月号. Courtesy of The Estate of R. Buckminster Fuller.
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私たちが知ることのすべて
今回の展示に向けて、アートサイエンス・ミュージアムとテレフォニカ財団は、ミラノのデザインスタジオStudio Folderとアンジェロ・セメラーロにインスタレーションの作成を依頼しました。フラーが1975年に行った42時間にもわたる講義「Everything I Know」からタイトルを取ったこのインスタレーション「Everything We Know(私たちが知ることのすべて)」では、ダイマクション地図、ワールド・リソース・インベントリー、ジオスコープ、ワールド・ゲームという、フラーの業績の基礎となる4つの要素が組み合わされています。観る者を、フラーとの、そして建築、デザイン、芸術、政治学、科学技術研究、社会科学、経済学の分野で活躍する研究者、思想家、実務家たちとの時空を超えた対話に誘うこの「Everything We Know」は、今最も緊急性の高い問題に彼らがどう貢献しているかをオンライン上のソースから集め、セマンティックな情報を持たせたメッシュ地図を使って、一般に公開されている300種以上のデータセットとペアリングさせた作品です。
動的なドットマップの状態にして投影されているデータは、レアアースの埋蔵量、世界的な森林消失、アマゾンの倉庫、風力発電所、スーパーコンピューターといったリソース、ネットワーク、インフラストラクチャが、世界のさまざまな大陸やエコシステムにどのように分布しているかを示します。知識が増えれば、不平等や紛争に対処するためのツールが増えるとし、対話とデータを通じて世界の問題を解決したいと願ったフラー。そんな彼の志を、観る者に問いかけるインスタレーションとなっています。
展示作品
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Studio Folder、アンジェロ・セメラーロ「Everything We Know」2020–2022. データビジュアライゼーション、レンダリング画像. アートサイエンス・ミュージアム
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宇宙船地球号: エデュケーション・アクティビティ
フラーは、私たちは誰しもが宇宙船地球号の乗組員で、宇宙とそのシステムがどのように機能するかを理解する能力を生まれながらに備えている、という世界観を持っていました。そして、好奇心や、実験に対する自然な意欲を押さえつけてしまう教育プログラムは根絶すべきだと考えていたのです。
その代わりとしてフラーが提唱していたのが、集中力やコミュニケーションを促進する技術を使って専門家の知識をすべての若者や子供に伝える「エデュケーショナル・メタボリズム」でした。そこでフラーが考案したのが、学生が個々に使えるキュービクルを作り、そこから著名な科学者、建築家、哲学者の研究をもとに専門家が作成した教材を視聴させるという教育方法です。キュービクルには、コミュニティ・テレビジョン・システム(フラーは「双方向テレビ」と呼称)と、いつでも講師と連絡を取ることができる電話が備え付けられる計画になっていました。また、ジオスコープとダイマクション地図という自身の2つの発明も置いておくべきだと考えていたようです。
このギャラリーでは、皆様に展示にご参加いただけます。
「宇宙船地球号」の乗組員として、皆で一緒に取り組むプロジェクトの仕事に貢献してみませんか? 皆さんが思い描いた未来の仕事の内容は、このギャラリー内に展示されます。
展示作品
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「宇宙船地球号」レンダリング画像: エデュケーション・アクティビティ, アートサイエンス・ミュージアム
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実験としての人生
バックミンスター・フラーが手がけた中でも特に壮大なプロジェクトが、彼自身の神話に関するものです。コミックに登場するスーパーヒーローのように、バッキー(フラーをよく知る人たちにはお馴染みだった呼び名)の伝説は、彼の人生に変化が訪れ、新しい人物として生まれ変わったところから始まりました。
悲劇に見舞われた後、フラーは2年間も口をきかずに内省の時期を過ごし、がむしゃらに5000ページものアイディアを書き付けており、それが彼のキャリアのスタートのきっかけとなりました。実はこれは、フラーの長年にわたるキャリアの中でのインタビューやカンファレンスを彩った逸話のひとつにしかすぎません。他にも、1日の睡眠時間は2時間で足りると主張していた、といったエピソードもあります。一筋縄ではいかず、さまざまな議論を巻き起こしたフラーは、その人生を通じて数々のアイディアやプロセスを探求し、それを理論や実験に発展させて、非常に多くの人たちに知られる存在となりました。
バッキーの神話には、誇張された逸話も沢山あります。しかしそれは、強力なアイディアを伝えるための手段として彼自身が構築した、先見の明のある起業家のイメージでもありました。何か特別な存在になる必要がなかったとしても、誰しもが並外れたことを成し遂げることはできるのです。
展示作品
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Wot Studio「Dymaxion Chronofile Visualisation」2020. ビデオインスタレーション. Courtesy of Stanford University Libraries.
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パーソナルなクロノファイル: エデュケーション・アクティビティ
『Radical Curiosity: In the Orbit of Buckminster Fuller』での体験を、さらに印象深いものにするために幅広い年代の方におすすめしたいのが、フラーの主要な発明をたどり、発見を探究するのに、自分だけの「Personal Chronofile(パーソナルなクロノファイル)」を作ることです。
このフォルダーは、バックミンスター・フラーの「ダイマクション・クロノファイル」に着想を得て制作されています。「ダイマクション・クロノファイル」は、フラーが自身の人生を可能な限りすべて記録しようとした試みでした。大きなスクラップブックを作り、そこに1920年から1983年まで、15分ごとに自分がやったことや考えたことを漏らさず記録していったのです。その中には、手紙のコピー、請求書、メモ、スケッチ、新聞からの切り抜きなども残されていました。フラーの人生は、20世紀で最も徹底的に記録された人生でもあったのです。
「Personal Chronofile」は、ガイド付きアクティビティの手引きとしてもお楽しみいただけます。
「Personal Chronofile」と『Radical Curiosity: In the Orbit of Buckminster Fuller』展のチケットとのセットもご用意しております。「Personal Chronofile」は、ミュージアムにて8シンガポールドルで販売しております。
展示作品
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ドローイング. Courtesy of The Estate of R. Buckminster Fuller.
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「Personal Chronofile」のイメージ, ギャラリー内でのエデュケーション・アクティビティ
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展示カテゴリー
ローザ・ペラ
スペイン、バルセロナを拠点とするインディペンデント・キュレーター、リサーチャー。
専門は、コミュニティアクションによる変化のオペレーティングシステムとしてのデザインの力と、科学、建築、現代美術といった学術分野との関係。
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