アジアの一族経営企業とフランスの伝統ブランドの提携、オーダーメイドのデザイン、そして高品質なものづくりに対するこだわりが、ラグジュアリーなホスピタリティに特別な魅力をもたらします。
アンソニー・タン氏は、ティーポットを作るのが複雑な理由を次のように説明しています。
「排泥鋳込み成形法(粘土スラリーを石こう型に流し込んで乾燥させる成形方法)を使うと、ティーポット本体の耐久性と厚さが時間によって変わります。乾燥時間が短すぎると磁器が薄くなり、構造的な強度を保てなくなったり、耐熱性が失われたりする場合があります。逆に乾燥が長すぎると注ぎや茶こしの耐久性に影響が出て、お茶の流れが不安定になったり詰まったりしてしまいます」
Inhesion Asiaのセールスディレクターは、マリーナベイ・サンズ用のLegle Asia製特注ティーポットの製造プロセスについて説明してくれました。Legle Asiaは、120年の歴史を持つフランスの陶磁器ブランドLegle Limogesと、香港を拠点とするテーブルウェア会社Inhesion Asiaとのパートナーシップから生まれました。
Legle Limogesの洗練された製品はファーストクラスのキャビン、プライベートのヨットや飛行機、ヨーロッパ各地のシャトーなどで採用されています。一方、Legle Asiaはアジアの高級ホレカ(ホテル、レストラン、ケータリング)部門向けにテーブルウェアを製造しています。「私たちは世界各地で120を超える一流ホテルやレストランとコラボレーションをしてきました」とタン氏は言います。
Inhesion Asiaは家族の強い結びつきで成り立っている企業です。1978年にジェフリー・チャン氏によって創設され、現在は彼の3人の息子たちが経営を行っています。デスモンド氏がCEO、アリク氏がCOO、ケヴィン氏がマネージングパートナーを務めています。3人は、アジアにおける高級料理やラグジュアリートラベルへの関心の高まりを目の当たりにし、クライアントが提供する洗練された体験に合わせた製品を提供することに注力しています。
マリーナベイ・サンズとのコラボレーションは、同統合リゾートが2021年後半に開始した総額 US$17億5,000 の大規模なリノベーションの一環です。「マリーナベイ・サンズとLegle Asiaは、考えが非常に共通しています。私たちはともに、違いをもたらす機会を探しているのです」とタン氏は語ります。
Legle Asiaの製品は、ザ・サンズコレクションやザ・パイザコレクションのすべての客室カテゴリーで採用されています。ザ・パイザコレクションは、マリーナベイ・サンズの最上級の顧客だけに提供される新たなプレミアムカテゴリーです。
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Legle Asiaはティーセットに加えて、リビングエリアで使用する麺類用のボウル、トレイ、スプーンも作りました。ティーポットとティーカップは、客室の戸棚をモチーフにしたエレガントな特注の柄が特徴です。ザ・サンズコレクションの品々には、鶴、川、霊芝(中国の文化でハーブとして使用されるきのこ)、桜の枝木が、ザ・パイザコレクションのものには蓮の花が採用されています。
「鶴と水連のモチーフには、マリーナベイ・サンズとお客様の両方にとって風水的な意味があります」とタン氏は話します。
イメージは、Legle Asiaのロンドンにある社内チームがデザインしました。これが承認されると、中国にあるInhesion Asiaのデカール工場に提出され、陶磁器の部品にデザインがプリントされます。陶磁器製品を製作したのは、1993年に創業したマレーシアのクランにある広さ約16,188㎡の工場です。タン氏は、「当社の陶磁器製造はすべて、ひとつ屋根の下で行われます」と話します。
この工場では、客室の洗面台に置かれる陶磁器製品も作られています。これには固形用石鹼のトレイ、濡れた物を置けるトレイ、タンブラー、洗面タオル用のトレイ、歯ブラシホルダーなどが含まれます。色はグレーとグリーンの2色で、ダブルシンクの洗面台の両側に置かれています。歯ブラシホルダーはユニークな形の背の高いコンテナです。真ん中がくぼんでいて、ナイトガウンを着た女性のシルエットのようになっています。
これらのバスルーム製品には、デカール工場で作られたエイの皮のようなシルバーのドット模様が施され、縁にはプラチナがあしらわれています。「私たちはホテルのバスルームアクセサリーに対して、まったく新しいアプローチを採用しています。これまでは異なるブランドや素材が組み合わされていましたが、私たちはひとつの素材を使い、デザインコーディネートからブランディングまでのトータルソリューションを提供したのです」とアリク氏は話します。
クラン工場設立時の熟練職人チームはスリランカ出身で、名古屋のノリタケ工場でボーンチャイナの製造を習得しました。クラン工場では粘土や釉薬といった素材やプロセスが独自のものであるため、社内トレーニングが行われています。
Inhesion Asiaにはホレカプロジェクトに特化した社内独自のデザインチームがあるため、難しいカスタマイズの依頼にも応えることができます。「当社のデザイナーは求められていることを理解しています。たとえば、高温ではどの色が使えてどの色だと崩れてしまうのかを分かっているのです」とタン氏は言います。
工場には鋳型製造部門もあるため、簡単に改良が行えます。Inhesion Asiaはアップグレードを続け、工場では最新の技術や機器を活用しています。これはイノベーションを継続的に行うという経営陣が掲げるミッションの一環です。アリク氏は言います。「クライアントにとって価値あるパートナーであるために、私たち独自のソリューションを提供できるよう努力しています」