
シンガポールの子供なら誰もが知っている伝説と言えば、シンガポールの名前の由来に関するお話です。1200年頃、スマトラのシュリーヴィジャヤ王国のサン・ニラ・ウタマ王子が、海を渡りシンガポールにやってきました。近隣の島々で狩りをしていた王子は、シカを追いかけて崖の上まできたとき、海の向こうに別の島が見えました。それは、白い布を広げたような砂浜が広がる島でした。王子が島の名前を尋ねると、トゥマシク(旧シンガポール名)と呼ばれていると言います。
王子は船に戻り、トゥマシクに向かいますが、激しい嵐となり、船員達は沈没を防ぐため重い荷物を海に投げ入れました。それでも沈没しそうだったため、王子は家臣の言葉に従い、自分の王冠も海に投げ入れて海を鎮めようとしました。するとにわかに嵐が止み、無事にトゥマシクの海岸に着くことができました。上陸した王子は、さっそく狩りを始めました。すると、オレンジ色のたてがみをした野生の動物が見えました。あれは「シンハ」と呼ばれているライオンです、と家臣が王子に言いました。ライオンは吉兆のしるしと信じられていたことから、王子はシンガポールにとどまることにし、この島を「シンガプーラ(ライオンの街)」と名付けたということです。

シンガポールにライオンが生息していた事実はなく、マレートラの生息地であったことが分かっていますが、それでも、ライオンの頭を持ったマーライオンは見ることができます。ワン・フラートン近くの河口にあるこのマーライオンは、シンガポールの強さと自信の象徴とされています。また、トラにまつわる伝説なら、ラッフルズホテルのロング・バーに行きましょう。ここは、シンガポール最後のトラが撃たれた場所だと言われています。
南の島へのクルーズ船に乗って近隣の小さな島々を探検していると、クス島が見えてきます。小舟に乗っていたマレー人と中国人の漁師がクス島付近で遭難しかけたとき、大きなカメが現れて、彼らを島まで案内して命を救ったと言う伝説があり、漁師たちは感謝のしるしとして、島に中国寺院とマレー寺院を立てたそうです。両寺院は現在も島に残されています。

これ以外の有名なシンガポールの民話には、古代シンガポールの英雄バダンの話があります。シンガポール川の川岸に、バダンという貧しくて弱い男が住んでいました。バダンは、毎晩シンガポール川に罠を仕掛けて魚を獲っていましたが、ある時、悪霊が彼の魚を盗んでいることを知り怒ったバダンは、悪霊に立ち向かいました。悪霊は、代わりにバダンの願いを叶えてくれると言いました。そこでバダンは、人並み外れた強い力が欲しいと願いました。まもなく、バダンは王宮の兵士に登用され、王国中で有名になりました。バダンは、インドで最強の男と闘い、あらゆる大会で優勝しました。
最後の大会は岩投げ大会でした。バダンは軽々と巨大な岩をはるか遠くの海に向かって投げ、その岩はシンガポール川の河口に落ちたと言います。この伝説が語られてから数年後、判読不明な碑文の刻まれた岩が、シンガポール川の河口で発見されました。多くの人々が、これはバダンが投げた岩だと信じています。岩は、川を拡張するために粉砕されましたが、その一部は今でも残されており、シンガポールストーンと呼ばれ、シンガポール国立博物館で見ることができます。