生い立ちとシェフとしてのこれまでの経験を伺わせてください。
私はシンガポールのリムチューカンで育ちました。村の実家では小さな野菜畑を持ち、家禽を何羽か育てていました。それで、子供の頃から、代々引き継がれてきた伝統的家庭中華料理のスタイルやレシピの数々に触れて育ちました。中国・潮汕出身の祖母からは伝統的な潮州料理を、そして客家出身の母からは、サンダーティーライス(擂茶)やヨンタウフー(醸豆腐)などの家庭料理を習ったことを覚えています。当時は、子供たちが家事を手伝うのはごく当たり前の時代で、私は7歳くらいから姉たちの台所の手伝いをしていました。1984年に中等教育を終えた後は、ナショナルサービスを果たす前に何か技術を身につけたいと思い、友人たちと一緒にキリンコート・シーフードレストランに厨房見習いとして入りました。そこで中華料理への情熱に火がつき、1988年にナショナルサービスを終えた後、キリンコートに戻ったのです。
30年前に、伝統的な中華料理店でシェフ見習いとして勤めるのは簡単なことではありませんでした。飲茶やロースト、スープ、炒め物などあらゆるタイプの技術を習得しつつ業務をこなし、休憩時間でも自分から先輩シェフに相談し、率先して学ぶ姿勢を見せなければなりませんでした。毎日最低16時間は仕事をしていました。確かに大変でしたが、私にとっては非常に有意義な期間でもありました。数年後残っていたのは、最初にいた仲間9人の中で私だけでしたよ。私にとって最初の師匠であるキリンコート・シーフードレストランのエグゼクティブチェフ・周仲漢氏は、シェフとしての私という人間の形成に非常に大きな影響を及ぼしたと思います。彼自身、12~13歳の頃から料理を始めた香港料理界においても数少ない巨匠の一人で、厨房では非常に厳しく、高い基準を持っている人でした。それと同時に、私のような若輩のシェフも辛抱強く指導してくれる師匠でした。今日私がシェフとして、また師匠としてバトンを担いでいられるのは、すべて彼のおかげだと思っています。
キリンコート・シーフードレストランを退職した後、1992年にノーブルハウスレストランにキッチンアシスタントとして入り、その後の18年間は料理の技術を磨き続け、志を同じくするシェフ仲間達と知識を共有してきました。2010年には、カジノのルビーラウンジのスーシェフとして、マリーナベイ・サンズのオープニングチームの一員として参加する機会を得ました。現在は、17名から成る調理スタッフのチームを率いて、シニア・スーシェフとしてFATT CHOI HOTPOTの日々の業務を監督しています。
シェフの料理哲学を教えてください。
私が常に心に留めている大原則は、私の師匠が教えてくれた料理倫理(厨德)の重要さです。シェフとして、提供する料理の1つ1つにこだわりと誠意を持って調理することが大切です。私たちに課された責任は、常に最高の食材だけを使い、食材を敬意を持って扱い、すべての料理を最高の状態で提供することです。
FATT CHOI HOTPOTと他の中華料理レストランの違いとは何ですか? また、中でもシェフおすすめの1品はどれでしょうか。
FATT CHOI HOTPOTは、アジア料理と地元の味覚を楽しめる24時間営業のレストランです。多くの人に親しまれている、ほっとする料理や懐かしい料理を提供しています。カレーチキンやバクテー(肉骨茶)などの地元料理から、スパイシーな味付けの豚足と椎茸の煮込み、日替わりの煮込みスープまで、各種幅広いメニューをご用意しております。ちなみに私のおすすめは、黒鶏の薬膳スープと、鶏肉と豚バラ肉を入れた冬虫夏草の薬膳スープで、どちらも私が編み出したレシピです。どちらも簡単ですが、広東料理シェフとしての腕前が試されるレシピでもあります。使用食材の組み合わせを慎重に吟味し、すべての漢方や素材の栄養価のバランスを学び、煮込み過程での熱のコントロールに配慮する必要があります。
FATT CHOI HOTPOTならではの料理をもう1つ挙げるとしたら、お好みで選べるスチームボート(シンガポール風火鍋)ですね。25種類以上の新鮮な食材と、4種類のスープベースからお好みに合わせて組み合わせることができます。中でも人気が高いのは、トムヤムスープ、とんこつスープ、ハーブチキンスープです。お財布に優しい、お手頃価格で提供していますが、当店のスープはすべて良質な食材を使用し、私のチームのシェフ達が心を込めて調理しているものです。例えば、風味豊かでミルキーな豚骨スープは、高級の豚骨と一緒に鶏の足や豚皮などコラーゲンを豊富に含む食材を8時間以上煮込んでいます。
FATT CHOIでは、どのようにしてお客様を飽きさせない、エキサイティングな新メニューを生み出しているのでしょうか?
FATT CHOIでは毎月、私のチームが新鮮な良質な食材を使い、こだわりのスープベースを一から作り提供しています。自然な優しい風味、豊かな味わい、そしてお手頃感から、お客様の皆様に愛されています。私のチームでは、様々な材料と組み合わせを試していますが、中でも私の個人的なお気に入りは、ティーツリーマッシュルームスープ(茶树菇汤)です。ティーツリーマッシュルームはアミノ酸を豊富に含み、栄養価が高いためスープに最適なのです。香りは、マッシュルームならではの土臭さがあります。私のチームは、お客様を飽きさせず、常に新しい驚きを提供するため、旬の食材を常に探しています。
お客様に喜んでいただくために特に留意していること、努力していることはありますか?
私としては、料理を通じてお客様と個人的なつながりを作り、料理の背景にあるストーリーを伝え、そしてお客様からフィードバックを得ることが大切だと考えています。それが、皆様に喜んでいただける最高の料理を常にお届けするために必要な努力です。毎日自ら店内を歩いて、お客様に声をかけたり、お料理を楽しんでいただいているかどうかを観察しています。料理に関心の高いお客様との出会いもあったり、お互いのお気に入りレシピや食材について情報をシェアすることも良くあります。このような活気ある交流が、よりアットホームな雰囲気を生み出し、常連のお客様がFATT CHOI HOTPOTに何度も足を運ぶ理由になっていると思います。