ステンシルで描く世界


段ボールのような固い素材を切り抜いて作った型、ステンシル。同じ模様や文字を何度も何度も複製することができます。アーバンアートの象徴ともいえるステンシルアートですが、その誕生にはストリートアートの原点ともいえるタギング(作者が独自のトレードマークを壁に残す行為)が大きく影響しています。

ステンシルと呼ばれる技法は、グラフィティアートは別に既に存在していたもので、その発祥はニューヨークではありません。しかしその発展に、ストリートアートは大きく貢献したと言えます。ステンシル画と言えば、壁に複製されたデモや政治的意図のある絵柄やスローガンを思い浮かべる人も多いでしょう。ユーモラスなものや詩的なもの、またはわざと衝撃をあおるようなものが多いのが特徴です。

多くの公共機関が違法グラフィティを減らそうと見回りを強化する中、作品を早く完成させることができるステンシルの使用が広く浸透していきました。70年代と80年代までの原点に近いグラフィティのスタイルと、ステンシルを使った新しいスタイル。この二つのスタイルが出会ったことで、ストリートアートの歴史は新しいチャプターを刻み始めます。

見どころ
Mcity
 
M-City(1978生まれ)
M-city 1011(Shipyard)
アートサイエンスミュージアム館内にて制作
2018年1月制作
 
M-City(Mariusz Warasの名前でも知られる)は、いくつもの顔を持っています。グラフィックアーティストでもあり、ストリートアーティストでもあり、旅行家でもあり、アマチュア建築家でもある彼は、ポーランド、グダニスクにあるAcademy or Fine Artsのグラフィックアート学部を卒業しています。都市に存在する空間にフォーカスした彼の作品には、何百もの慎重に切り抜いてステンシルを組み合わせて、機械的かつ産業的な都市の景観を描かれています。
バンクシー(生年月日不詳)
 
バンクシー(生年月日不詳)
Rat and Heart、2015
キャンバスにスプレーペンキとエマルジョンを使用
Courtesy of Vroom & Varossieau
写真:ステファン・ビスイユ提供
自らの素性を一切公開しない形で活動し続けるイギリス人アーティスト。そんな彼が、ステンシルの世界に戻ってきたのは1990年代のことです。シニカルな風刺を内包した作品には、単純かつ皮肉たっぷりの場面が描かれており、社会の矛盾に対する疑念が見て取れます。彼は、その作品の美的価値が、ストリートアートの垣根を越えて、広く一般的に認められた初めてのストリートアーティストとして知られています。バンクシーが起こしたこの社会現象は、ストリートアートの世界に衝撃を与えました。彼の名はまたたくまに世界中に知れ渡り、最も有名で、皆が憧れるアーティストとなります。世界のどこかで、彼の新しい作品が現れるたびに、それは大きな話題になり、ストリートアートとは無関係な人たちからも褒め称える声が聞こえてきます。
Jef Aérosol(1957生まれ)
 
Jef Aérosol(1957生まれ)
Sitting Kid and Butterflies、2016年制作
段ボールにステンシル
マグダ・ダニス・ギャラリー提供
写真:ステファン・ビスイユ提供
Jef Aérosolは、主に黒、白、そしてグレーを用い、それらの色を何層にも重ねることによって描く、ステンシルの新しい表現法を使います。彼の作品には、エルビス・プレスリー、ジョン・レノン、ジミ・ヘンドリックスといった有名ミュージシャンの肖像を題材にしたものが多くあります。まるでビジュアル版ジュークボックスのような作品は、彼がコレクションしているレコードアルバムのカバーからインスピレーションを受けています。彼はまた、無名の人々も作品の題材とします。それは街で見かけたミュージシャンから、通行人、子供やペットの動物にいたるまで。このような題材をテーマにした作品は、他のステンシルアーティストのものでもしばしば見られます。