自然科学

「ダ・ヴィンチ: 未来を造形する」展の第2セクションでは、アトランティコ手稿の複写ページ、インタラクティブな展示、模型、デザイン、体験学習型のアクティビティを通じて自然科学の研究をご紹介します。
 
レオナルド・ダ・ヴィンチは自然への深い敬意を抱き、その巨視的な要素と微視的な要素の両方に愛着を感じていました。 ダ・ヴィンチは水と空気の運動、地球の地層、植物の多様性について研究していました。 微視的な観点からは、主に人体、特にその美しさと比率、運動のしくみ、他の動物との動作の比較に関心を寄せていました。 同時代人が巨視的世界と微視的世界は直接連関しているという古代の見解を鵜呑みにしていたのに対し、ダ・ヴィンチは現代の科学者と同様に、真の知識は注意深い観察によってのみ得られるという信念を持っていました。 彼はこの姿勢を貫いて自然界を観察し、観察によって得られた知識を実践的な問題に応用しました。
 
このセクションでは、ダ・ビンチによる自然界の巨視的・微視的な要素の研究が、アーティスト、ルーク・ジェラムがウィルスや細菌などの微生物の分子構造をガラス細工で表現したオブジェの中で提示されます。
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Drawing of a Flood 1516—17 F.215 recto  Leonardo da Vinci Codex Atlanticus

水の性質

アトランティコ手稿の紙葉から分かるように、ダ・ヴィンチは他のどの元素よりも水の研究に力を入れました。 彼は自然界の運動と変化の主な力は水であると考え、水を「自然の原動力」と呼びました。 古代の哲学者の影響を強く受けたダ・ヴィンチは、当初は地球を生命体として捉え、水の流れを生体循環系と比較していましたが、 

水の性質を雨滴、川、涙、血液といったさまざまな形態で研究し、水の動的挙動を観察していくうちに、自然界に対する独自のアプローチを考案しました。 ダ・ヴィンチは徐々に古代の手法の欠点に気付き、自らの科学的観察によって理解を深めていきました。 やがて、水の性質に対する知見を活かして水力を利用する油圧工具を開発し、時に破壊的な現象を引き起こす性質を、人類にとって有益な力に転換しました。

Flying Machine 1478—90  F.860 recto  Leonardo da Vinci Codex Atlanticus

自然の飛行と力学的飛行

ダ・ヴィンチの力学的飛行に関する研究は、その職業人生を通じて重要な発展を遂げました。 最初の研究は、ヴェロッキオの工房で祭りの舞台装置と聖物の表現に採用されたところから始まりました。 そこからインスピレーションを得て、同じ機械を利用して劇場用の飛行器具を制作しました。 ミラノに居を移したダ・ヴィンチは、飛行機械の羽を人体によって動かす方法を研究しました。 

1500年頃には、鳥の形状と機能に特に関心を抱き、その影響を受けて最初の飛行機械のデザインが生まれました。 彼は、羽の解剖学的構造、体の他の部分との比率、風の状態による羽の運動の変化を研究しました。 

ダ・ヴィンチは依然として翼の羽ばたきと滑空の観点から人工的な飛行を検討していたものの、そのデザインは徐々に自然の羽に近いものへと変わっていきました。 彼が飛行機械を開発し、時代を何世紀も先取りするためには、不断の自然観察が不可欠でした。

Map of Europe Circa 1515 F.1006 verso  Leonardo da Vinci Codex Atlanticus

地理学

ルネサンス期の「地学」の研究には、地球の起源、生理学的特性、天然元素の法則などのさまざまな研究分野が含まれていました。 ダ・ヴィンチの地学の研究は、人類にどう役立てることができるかという観点から進められました。 緻密な測定、観察、地理的特性の記述を重視したダ・ヴィンチが、そのために自ら設計し、利用した工具が、後にさまざまな民生技術や軍事プロジェクトに応用されました。 

ダ・ヴィンチの地図製作技術は、中世およびルネサンス期において傑出していました。 彼の地図は驚くほど現代的で、その多くは今日でも通用するほど正確です。 ダ・ヴィンチは現代の地図帳と同様に色と影を用いて標高を表し、細かい風景の鳥瞰図を素描していました。 そのため、ダ・ヴィンチの地理研究の成果を見ると、多くの場合に飛行機から眺めた景色のような印象を受けます。

Sage Leaf 1508—10  F.197 verso  Leonardo da Vinci Codex Atlanticus

植物研究

ダ・ヴィンチの植物と花に関する研究の片鱗は、既に初期の絵画作品の中に植物学者並みの正確さで表れています。 その植物の表現は、適切な生息環境と正確な季節感を表していました。 植物の形状と構造を研究し、年齢を見抜き、太陽の方向に向かう動きを観察し、枝の生育を規定する幾何学的法則を理論化しました。 

アトランティコ手稿の中で、ダ・ヴィンチは希少な植物や花を描き、治療的性質や絵画に使用するさまざまな色の作り方といった植物研究の応用方法を記述しました。 ダ・ヴィンチの植物研究は、自然現象を厳密な科学的視点と絵画に結び付いた視点という2つの視点で捉える姿勢に貫かれていましたが、 影、光、風景の描写方法の問題はダ・ヴィンチの作品のテーマとして繰り返し登場し、科学と芸術は不可分であるという彼の信条を反映しています。

人体図

人体の研究とその研究結果の図解において、ダ・ヴィンチは時代を何世代も先取りしていました。 ダ・ヴィンチの人体構造への興味は人体をより正確に絵に描写する手段として生じたものですが、その興味の対象は急速に科学の領域にまで発展していきました。 1480年代末~1500年代始めには詳細な解剖学研究を進め、その多くは病院での遺体の解剖に関するものでした。 

ダ・ヴィンチは、人体の内部器官は相互に密接な連関があり、さらに人体の外部機能への直接的な因果関係もあると確信していました。 この姿勢が、人間の性質の巨視的側面と微視的側面に対するきわめて複雑な理解に反映されています。 人体の特性と運動を捉えて絵画に描くためには、各特性の役割と機能を理解する必要がありました。 ダ・ヴィンチの人体に対するアプローチは、他のすべての研究分野に対する場合と同様にホリスティックなものでした。
鳥の飛翔に関する研究(1505年 レオナルド・ダ・ヴィンチ『アトランティコ手稿』第845紙葉表)
飛行機械(1478~90年 レオナルド・ダ・ヴィンチ『アトランティコ手稿』第860紙葉表)
地球の大きさを測定する器具(1490年 レオナルド・ダ・ヴィンチ『アトランティコ手稿』第727紙葉表)
地球の大きさを測定する器具(1490年 レオナルド・ダ・ヴィンチ『アトランティコ手稿』第727紙葉表)
大洪水の素描(1516~17年 レオナルド・ダ・ヴィンチ『アトランティコ手稿』第215紙葉表)
雨水の形成に関する研究(1508年頃 レオナルド・ダ・ヴィンチ『アトランティコ手稿』第796紙葉表)
色作りの処方箋(1480年 レオナルド・ダ・ヴィンチ『アトランティコ手稿』第704紙葉表)
セージの葉(1508~10年 レオナルド・ダ・ヴィンチ『アトランティコ手稿』第197紙葉裏)